適応障害=キャリアの失敗じゃない

心のバランス
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適応障害になったとき、わたしはもうこの先何をやってもダメかもしれないと思い、暗い日々を過ごしていました。

そんなわたしを救ってくれた3つのマインドセットをお伝えします。これは、心療内科の先生やわたしのパートナーがかけてくれた言葉の中で、わたしが最も大切にしている言葉たちです。

同じ悩みをもつ、こんな方々に読んでいただきたい記事です。

  • 今適応障害で落ち込んでいる人
  • この先何をやってもダメなんじゃないかと、将来に自信をなくしている人

適応障害を乗り越える3つのマインドセット

一度適応障害になると、またこの先同様のストレスにさらされたときに再発しやすいというような話を聞きます。もちろんそれは人それぞれだと思いますが、こんなにつらい経験、繰り返したくなんてないですよね。

不安を乗り越え、将来繰り返さないためには、次の3つのマインドセットを持っていることが大切です。

  • 心のバランスを崩したのは、自分が弱い・悪いからではなく、ただ環境が合わなかっただけ
  • 休職や退職は「負け」や「失敗」ではなく、それがその後の人生を定義することもない
  • まずはストレスを遠ざけて「休息」を取ることで、疲れや心の傷を癒やし、自分を取り戻して、次に向かうためのエネルギーをつくる

これからそれぞれ詳しく書いていきますが、「適応障害のことを大きな問題ととらえすぎない」ことが重要だと思っています。

わたしは、海外駐在・MBA留学・スタートアップ転職など、周りから「バリキャリ」と言われるような人生を歩んできましたが、最後に務めた会社で二度メンタルダウンを経験しました。

一度目は会社の同僚とうまくいかず1ヶ月休職し、二度目は直属の上司のハラスメントによるストレスで体調を崩し退職しています(これについては別記事に書きます)。

一度目は、「今までこんな風になったことがないのにどうして?」「長時間労働や海外出張だってこなしてきたのに、なぜ?」という混乱の方が強かったのですが、二度目は、「また心を病んでしまうなんて私はなんて弱い人間なんだ」「もう何をやってもうまくいかない」「こんな私はいない方がいいのかもしれない」など、結構思い詰めていました。

この記事の執筆時点でまだカウンセリングのために通院をしていますが、いつも自分に言い聞かせて気持ちが沈まないようにしています。

心のバランスを崩したのは、自分が弱い・悪いからではなく、ただ環境が合わなかっただけ

適応障害(Adjustment Disorders)とは

日常生活の中で、何かのストレスが原因となって心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたもの。原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態をいう。日常生活の中で起こった出来事や環境に対してうまく対処できず、心身に様々な症状が現れて社会生活に支障をきたす状態をいいます。ストレスの原因が明確であることが定義上重要となります。症状はゆううつな気分、不安感、頭痛、不眠など、人によって様々ですが、仕事や学業などを続けたり、対人関係や社会生活を続けることに問題のある状態となります。これらは一般的には正常な人にも現れる症状ですが、適応障害の場合はそれを超えた過敏な状態となります。治療にはまず原因となっているストレスを軽減し、心理的に回復させることが必要です。また、場合によっては薬物療法が必要なこともあります。(e-ヘルスネット 厚生労働省)

適応障害を引き起こすストレスの原因は様々ですが、この記事ではわたしが経験した「職場での人間関係」について書いていきます。

なぜ「負け」や「失敗」ではないのでしょうか。わたしが「弱い」のではないなら、なぜ適応障害になってしまったのでしょうか。

仕事をしている時間は、人生の多くの時間を占めています。標準的なフルタイムの労働時間が8時間/日だとすると、一日の3分の1です。わたしの場合は日常的に時間外労働があったので、14時間/日くらいは働いていたと思います。そうすると、ほぼ仕事と睡眠だけで一日が終わっていきます。

業務内容、上司、同僚、取引先、職場の環境など、ストレスを与えるものは人によって様々ですが、会社では(職場の人とは)長時間過ごしますし、多くの人が関わる複雑な場所なので、全てのことがうまくいくなんてことはそうそうないというのがデフォルトです。

そして、スポーツに得意・不得意があるように、ストレスに対しても得意・不得意があると思います。他の人はこの上司に耐えられるが自分は耐えられない、他の人は耐えられないが自分は耐えられるというのは、まさに人によって得意なストレスと不得意なストレスがあるからです。

「他の人は大丈夫だから、耐えられないわたしが弱いんだ」と思うかもしれません。でもそれは、単にその環境や上司があなたにとって合わなかっただけなんです。例えば、友人はドッジボールが苦手だとします。でも、だからと言って誰もそれが「悪い」なんて言わないですよね。そうやって考えると、少し楽になりませんか。

ちなみに不得意という表現はなんだか自分が「できない人」みたいで個人的には好きではないのですが、わかりやすいのでここではこの表現にしておきます。

休職や退職は「負け」や「失敗」ではなく、それがその後の人生を定義することもない

例えば上司とうまくいかず適応障害になった場合、それが示すのは次の2つです。

  • 上司のようなタイプの人との人間関係からくるストレスを扱うのは不得意
  • その上司には耐えられない

この説明から分かるように、ある「特定の上司」に耐えられなかっただけで、人間関係からくるストレス全てに耐えられないわけではないんです。自分という人間とは、本質・本能レベルで合わなかっただけ。自分は何も悪いことをしていないし、失敗もしていないんです。

「耐えられなかったことが失敗なんだ」と思うかもしれません。でも、その耐久戦ってそもそも戦って勝敗が決まるような性質のものだったのでしょうか。どうにかうまくやろうと、相手に合わせて自分の対応を変えようとはしませんでしたか。

それで無理なく対応できるなら良いですが、でも適応障害になってしまったのであれば、それは「どうにかしよう」と自分なりに何度も戦って試した結果、どうしようもなかったことなのではないでしょうか。であれば、それはそもそも戦ってどうにかなるものではなかったんです。ここまで十分頑張った自分を褒めてあげてください。

そして、だからこそ、この経験によってその後の人生が決まってしまうなんていうこともないんです。ドッジボールが苦手だから、将来やるかもしれない他のスポーツも全部できない。なんて考えないですよね。

今起きていることは、今の状況・環境があなたに合わなかったことを示しているだけであって、それ以外のことについては「そうなってみないと分からない」という状態のはずです。

わたしは心が弱いからこの先もうまくいかない、一度失敗したからこれからどんな仕事をしても同じようになる。そう決めてしまったのは、他の誰でもなく自分自身なんです。

まずはストレスを遠ざけて「休息」を取ることで、疲れや心の傷を癒やし、自分を取り戻して、次に向かうためのエネルギーをつくる

人はそもそも100%の状態で常に走り続けることはできません。ということは、ストレスがかかっていればなおさら走り続けるなんていうことは困難で、疲れ切ってしまった今、休息を取らなければ次の一歩を踏み出す体力さえなくなってしまいます。

よく「逃げていい」という言葉を聞きます。わたしも大賛成です。特に根本的に相入れない状況においては、相手に合わせて自分をどうにか順応させようとすることに膨大なエネルギーを費やすのではなく、自分を守るための行動を取ることが重要です。

ただ、個人的には「逃げる」よりも「避難する」という言葉の方が好きです。「逃げる」という言葉は自分に後ろめたい気持ちがあってその場や状況からのがれるときにも使いますが、「避難」は対象となる人や状況が「災難」で、それから「自分を守るために」離れるという意味合いでのみ使われるからです。

つい、自分に非があったのではないか、こんな風に考える自分が悪いのではないかと思い詰めがちですが、それは相手も同じはずなんです。もしかしたら自分にも直せることがあるかもしれない、でも人間関係の悩みは相手があってこそ発生するものです。つまり、相手にも直せることがあるはずです。自分だけを責める必要はありません。

話は少し逸れましたが、人は常に成長していて、経験から学ぶことができます。つまり、経験から対処法を学び変わろうする「意志」があれば、状況を変えていくことができます。

そのためには、自分がダメージを受けた事柄はどんなものだったか、それに対して自分は何を感じ、どう考えたのか、心や頭の中で起きたことを一つ一つ振り返る必要があります。このReflectionを経て初めて「学ぶ」段階に入ることができます。

ただ、このプロセスは考えるためのエネルギーを必要とします。また、経験をどう活かすか、どうすれば同じ状況を避けられるかという対策を考える段階でネガティブ思考になってしまうと、効果が半減もしくはそれ以上減ってしまいReflectionの意味がなくなります。

そのため、まず今は傷ついた心をしっかり労って傷を癒やし、物事を冷静に受け止め考えられる自分になることが最優先です。だから、休んでいいんです。休職や退職は、自分が前に進むために、将来うまくストレスをコントールできる術を身につけるために必要な休息期間です。

で、どうすればいいの?

「マインドセットはわかったけど、で、どうすればいいの?」となると思います。ここでは、適応障害から回復するためにできる行動について書いていきたいと思います。

「何もしない」時間をしっかり取る

先ほども書きましたが、何よりもまずはしっかりと休むことです。休まないと脳がノンストップで動いてしまって、ストレスになった出来事、将来への不安、転職など、様々なことを延々と考えて、結局何も答えが出ないまま思考がぐちゃぐちゃになって余計疲れることになりかねません。

わたしは上司から言われた言葉の数々が忘れられず、自分は仕事ができない人間、無能なんだと思い詰め、夜は全く寝られず寝ても悪い夢ばかり見るという毎日でした。少し考えない時間ができるようになるまで、わたしは1ヶ月以上かかったと思います。

このときは何もやる気が起きず、ソファに寝そべって暗い部屋でぼーっとしたり、映画をつけたり消したりして一日が過ぎていきました。そんな状態になっている自分にもイライラするのですが、経験上ここで焦って何かしようと思っても回復が遅くなるだけでした。子供に戻って、やりたくないことはやらない、「こうあるべき」「こうしなくちゃ」という考えを捨てることが重要です。

心が落ち着く場所に行って、自分を見つめられる状態になる

少し気持ちが落ち着いてきたら、自分の心が落ち着く場所へ行きます。

例えば、近所の公園に行ってぼーっとする。少し足を伸ばして温泉や海に行ってみる。ここで重要なのは、何かを考えるためではなく、頭を空っぽにするために行くということです。

「もう大丈夫な状況かどうか」は、自分にしか分かりません。だから自分のペースで、時間をかけて、気持ちが落ち着いたかどうか自分に聞いてみます。ここで無理をして中途半端な状態で前に進もうとすると、後でしんどくなって回復にもっと時間がかかる可能性が高くなると思います。「わたしは落ち着いたよ」と、自信を持って言えるまで時間をかけましょう。

そして、少し客観的な視点でストレスのもとになった出来事を振り返ることができそうか自分に聞いてみます。わたしはしばらくの間、思い出すだけで涙が溢れて感情的になってしまいました。それがだんだん落ち着いてきて、あのときは大変だったなと一歩引いて考えられるようになった頃には、もう3ヶ月くらいが経っていました。

これからのことを考え始める

心がスーッとしてきたら、ここでやっと「これから」について少しずつ考え始めてみます。

でもまずは、「あの状況(人との関係)は、わたしには合わなかった」と素直に受け入れることが大切です。そして、「適応障害になるレベル」のストレスを受けないようにするにはどういう対処方法があるか考えてみます。

レポートラインを変えてもらう、同じ業務の他のチームに入る、他部署に異動する、転職する、など色々な選択肢が考えられると思います。

ただ、共通していることは、「自分が動く」必要があるということです。それは、「周りを変えることはできない(難しい)」からです。よく「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。」というように、自分からアクションを取ることが重要です。

そして、先ほど挙げた対処法の選択肢の中で、どの辺りであれば手が届きそうか考えてみます。そのときに注意するのは、例えば転職を考えたときに、「今転職したら家族が困る」「新しい会社では給料が下がるのではないか」など、「ストレスから避難する」という一番重要なこと以外の心配は一度置いておくということです。それは、外部要因を考え始めると身動きが取れなくなってしまうからです。あくまでも「自分」を軸に、ストレスから退避するためにベストな選択肢を考えてみてください。

その選択肢を一旦ゴールに置いて、一番最初のステップに踏み出します。それは、「誰かと話す」ということです。例えば、社内でどうにかなりそうであれば、まずは上司や人事(上司に話せない場合など)に話すことから始まります。もし転職を考えるのであれば、キャリアコンサルタントや転職エージェントに相談することもできます。

一人で考えると思い詰めてしまって「他の人に話す」こと自体のハードルがものすごく上がってしまうと思いますが、話すことで自分の考えが整理できたり、落ち着いて選択肢を検討できたりすることは往々にしてあるので、信頼できる人に今の考えを話してみると段々と対策が具体的になってくると思います。

まとめ

適応障害は、誰にでも起こりうるもので、決してキャリアの終わりではありません。

調べると「なりやすいタイプ」というのは色々と情報が出てきますが、それでも一度なったからといって他の環境でもなるとは限らないのです。

しっかり自分と向き合い、自分のやりたい仕事や大切にしていること、そして不得意な環境や状況をきちんと理解して、同じことが起きないように対策を打つことが大切です。適応障害になってしまったこと自体は自分が悪くなくても、その後自分の心を守る行動を起こせるのは自分だけで、その責任は自分にあります。

つらい出来事に変わりはありませんが、これを「自分を見つめ直す良い機会」ととらえて、これからもっと自分が輝く人生を歩むためのエネルギーに変えられたら、それほど強いものはないと思います。

最後に、わたしが休息中に読んだ本を紹介します。読むタイミングによって感じ方は変わると思いますが、同じような経験をされた方々のストーリーを知るだけで「わたしだけが弱い」「わたしが悪い」といった孤独な思いが軽くなっていくのを感じました。